機能性や抽象性の間を行き来しながら、自然の力学や物質に関わる人間の行動様式、素材や形態と作品の内側で起きている物理現象など運動を扱い制作を行なっている。椅子や机、格子や木枠など家具の断片のように見える構造体は、個々の記憶を巡らせるが、同時に機能性の消失と共に忘却へと向かわせ、記憶の輪郭を曖昧にさせていく。この空間では、目の前に対峙する物質だけが物事と私の存在を証明する。

私がいくつかの作品の中で見せる反復行為は、同じ紙の上で文字を書き続けるといずれ、重ねの連続によって書かれた言葉の意味を忘れて色となって現れるのと似て、反復の運動は主体からの忘却へのプロセスとなる。この時、紙にとって文字は、紙と黒鉛との摩擦によって出来た抵抗の現れとして、同時並行的な世界を可視的に開示する。ものに取り扱われる私と私に取り扱われるものとの間に立つ、所有者を持たない運動を匿名的な技術として応用し、物事の記憶の再生と形式や主体からの忘却とが絶えず繰り返される緊張関係の中で、開かれた世界を再び読み解くことが私の表現である。

白木麻子